日本は高齢化社会が進んだことから、近年、判断能力の衰えた高齢者や認知症患者をターゲットとした犯罪が増加しています。
振り込め詐欺や家のリフォーム・メンテナンス詐欺などが多くなっていますが、中には必要以上の物を大量に購入させる「過量契約」(俗に、つけこみ販売)というものがあります。
消費者を不利益な契約から守るのが消費者契約法ですが、過去、過量契約を対象とした規定がなかったため、一般的な公序良俗や不法行為等に対する規定によって保護するしかありませんでした。
そこで、改正消費者契約法では加齢や認知症等により判断能力が不十分である人に対して、同一の商品を大量に販売した契約を取り消せる規程が新たに設けられました。
改正消費者契約法第4条4項
消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものの分量、回数又は期間が当該消費者にとっての通常の分量等(消費者契約の目的となるものの内容及び取引条件並びに事業者がその締結について勧誘をする際の消費者の生活の状況及びこれについての当該消費者の認識に照らして当該消費者契約の目的となるものの分量等として通常想定される分量等をいう。)を著しく超えるものであることを知っていた場合において、その勧誘により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。(後略)
過量契約に該当する場合とは?
過量契約と判定されるのは以下の要件に該当する場合です。
- 事業者が勧誘の際に過量契約であると認識している
- 通常の分量を著しく超えている
- 事業者の勧誘と消費者の購入意思表示との間に因果関係がある
過量契約の認識
過量契約の認識というのは、販売履歴がある場合や、独居であることが分かっている場合など、当該消費者にとっては明らかに適量を超えていることが当然であるのに、あえて契約を締結することをいいます。
事業者の認識が過量契約の判定に必要なのは、過量契約が当該消費者にとって必要以上の数量を販売することだからです。
つまり、事業者が勧誘する際に、当該消費者における合理的な数量を知らなければ、大量に販売したことが過量かどうかは分かりません。
大量に販売したことだけで、事業者の行為に悪質性があるとまではいえず、取消が認められることはありません。事業者が「過量である」と認識して販売した時に初めて罪を問うことができます。
なお、過量であるかどうかを判断するために、消費者の生活状況を調査することまでは事業者に求められていません。
絶対的な過量
過量と判断する材料には以下のことがあります。
(1)購入商品の内容(性質や性能、用途など)
(2)取引条件の内容(価格や割引、支払方法など)
(3)消費者の生活状況(家族状況や利用環境など)
(4)消費者の認識
上記の4点を考慮した上で、一般市民の生活実態から常識的適量を判断します。
なお、適量かどうかの判断は1回で販売された商品の数量だけではなく、同種の商品の継続販売(俗に、次々販売)における合計数量が基になります。
因果関係
取引である以上、事業者の勧誘と消費者の申込の意思表示との間に因果関係がなければなりません。
事業者の勧誘無しに、消費者が一方的に注文をしたのでは過量契約は成立しません。
改正消費者契約法と特定商取引法との比較
特定商取引法にも過量契約の解除規定がありますが、改正消費者契約法における過量契約の取消規定との内容の違いとして、以下のことが挙げられます。
特定商取引法 | 改正消費者契約法 | |
規制対象の取引 | 訪問販売 電話勧誘販売 通信販売 など |
限定なし |
主観的要件 | 販売者の過量の認識が必要。但し、1回の取引が過量の場合は販売者の主観的要件は不要 | 事業者の過量の認識が必要 |
効果 | 解除 | 取消 |
権利行使期間と起算点 | 契約の締結時から1年以内 | 過量契約を知った時から1年以内、且つ契約の締結時から5年以内 |
特定商取引法は訪問販売や電話勧誘販売などが対象となっているため、対象販売以外は過量契約の適用はありません。
例えば、アパート1部屋の一人暮らしの高齢者と知りながら、店舗にて5組の寝具を販売した場合、改正消費者契約法では4条4項に則って取消ができますが、店舗での販売のため、特定商取引法は適用されません。
過量契約と判定されるためには、事業者の認識が前提になっているため、余程極端な数量でもない限り、適用されることは滅多にありません。
高齢者を狙ったものはカードローンなどの貸金業者にも、「押し貸し」と呼ばれるものがあると言われています。
債権者と債務者では債務者の方が立場が弱いため(特に中小消費者金融の場合)、貸金業者からの増額や再貸付の営業で、本当は必要ないのに借りてしまうことがあります。
お金借りる即日で探している人と違って、貸金業者からの営業電話等は、特に必要のない融資とも言えます。
高齢者は電話の押しに弱い場合があるので充分に注意しましょう。